本名・澤村寿一。 女形、和事を得意とする紀伊国屋の出身。1933年生まれ。八代目澤村宗十郎の長男で、弟に二代目澤村藤十郎がいる。
源平、訥升を経て、1976（昭和51）年9月、九代目を襲名した。
ふくよかな顔つきにねばっこい台詞回し、立役・女形・三枚目いずれもこなせる黒砂糖の菓子のような古風な演技は、 名優と賞された祖父・七代目の遺伝。歌舞伎自体がどんどん現代化していく中で、長らくどこの一座にも属さず、 自分の持ち味をかたくなに守りぬいた。
そのために、役者としては不遇だったところもある。
晩年は大病を重ね、よれよれの体を押して千秋楽まで演じた2000（平成12）年12月の「蘭蝶」が最後の舞台。 くしくも千秋楽は20世紀の最後の歌舞伎舞台であった。 21世紀の舞台に立つことなく、翌月2001年1月死去。
古風なおおらかさとコクのある芸風で親しまれ、芸術選奨文部大臣賞、紫綬褒章などを受けた。